2017年10月14日土曜日

植物は硝酸が少ない方が栄養価が高まる

1.硝酸はほんとうに悪者か?

地球に生きる生物の体は、タンパク質でできている細胞でできている。タンパク質は窒素を含むアミノ酸を原料につくられている。地球の大気の7割は窒素でできているが、植物も動物も、この空気中の窒素を利用することができない。植物は根から水を吸収するときに、土中の水にとけた窒素を水と一緒に吸収することができる。水に溶けている土中の窒素=硝酸、亜硝酸、アンモニアを吸収して、それらを材料にアミノ酸を合成することができる。動物は、硝酸、亜硝酸、アンモニアからアミノ酸を合成することはできないので、植物がつくったタンパク質を食べるしかない。

根から吸収された硝酸はアミノ酸になり、タンパク質になり細胞になっていく。したがって、野菜の硝酸塩(硝酸イオン)の含有量が、少ないほど、窒素同化が盛んであるということができる。逆に硝酸が多い野菜は、硝酸が過剰に供給されているか、窒素同化の能力が低いということができる。

硝酸は、味として苦味、えぐみとして感じられるので、硝酸が多い野菜は「まずい」ということもできる。

硝酸には中毒症状がある。WTO(国連保健機関)は、飲み水に含まれる硝酸イオンが50mg/ℓ(窒素量としては11.3 mgN/ℓ)になる場合に中毒になる可能性があるとしている。これを受けて、1993 年に「水質汚染防止法」が改正され、硝酸態窒素および亜硝酸態窒素は要監視項目に指定される。1999 年に「公共用水域及び地下水の人の健康の保護に関する水質環境基準」に硝酸態窒素および亜硝酸態窒素の項目が追加され、その値は窒素量で 10 mgN/ℓ以下と定められた。これは硝酸イオンに換算すると、44.3 mg/ℓに相当する。

農林水産省のHPには、厚生労働省が厚生省だった1988年に調査した野菜の硝酸イオン量が記載されている。学校給食の献立をつくるための五訂日本食品標準成分表には、硝酸イオンの含有量の目安が記載してある。

EUではホウレン草とレタスについて法律で含有量の規制が設けられている。この基準が定められた背景には、①ブルーベイビー症候群、②地下水の硝酸汚染の2つがあるといわれている。

①ブルーベイビー症候群とは
第二次世界大戦後から1986年までの間に、欧米では2000件以上の硝酸中毒事故があり、乳児を中心に160人が死亡している。特に1956年には、278人の乳幼児がこの中毒にかかり、そのうち39名が死亡したとといわれる。原因は裏ごしされたホウレン草で、これを離乳食として食べた乳幼児が、急性硝酸塩中毒をおこし、チアノーゼを発症し、全身が真っ青になって30分程度で死亡してしまったという。この事件は、全身の皮膚が真っ青になる症状から「ブルーベビー症候群」といわれた。アメリカでは、1950年代から1965年ごろに多く発生し、1060件の症例の報告があり、83の論文に死亡例が出ている。硝酸は窒素に酸素が3個もついているため、赤血球の中のヘモグロビンが酸素と間違えて、酸素の必要な場所に運んでしまうのだが、硝酸の酸素は使えないため、酸欠を起こしてしまう症状。乳幼児は細胞分裂が盛んで、酸素が大量に必要となるので、特に影響を受けやすく、死亡することもある。


②地下水の硝酸汚染
上の図は、河川の窒素濃度を推定したもの。欧米で起こった「ブルーベリー症候群」の原因の真の犯人は地下水の硝酸汚染だったかもしれない。戦時中は火薬の原料になっていた硝酸。それが戦争終結と共に余ったために化学肥料として大量に農地にまかれたともいわれている。

牛が摂取した硝酸イオンは第一胃の細菌の働きで硝酸塩は還元されて亜硝酸になる。亜硝酸はさらに還元されてヒドロキシルアミンとなり、最終的にはアンモニアにまで還元される。亜硝酸やヒドロキシルアミンなどは、第一胃の粘膜から吸収されて血液に入り、血液中の赤血球のヘモグロビンと結合し、酸素の供給を阻害する。これが原因で死亡する牛は毎年、少なからずいる。特に1日に100ℓもの水を飲む乳牛は、地下水に含まれている硝酸の影響を受けやすい。

河川の窒素濃度を上昇させているのは、田畑に投入される肥料によるものである。窒素肥料の窒素は水に溶けやすく、田畑に投入される窒素は、雨水によって溶け出して、河川に流亡し易い。

2.アミノ酸態の肥料の可能性

高校の理科で生物を選択する生徒が減っているという。理由は、ここ10年で、生物の世界では新発見が多くあり、従来の教科書の内容がどんどん塗り変わっていることによる。つまり、生物を選択すると大学受験の試験に困ることになるというのが、生物離れの原因なのである。
植物はアミノ酸態の窒素も直接的に利用できることがわかってきた。上の図は、2007年に福島県農業総合センターの二瓶直登氏の研究成果。グルタミンの窒素を放射性元素に変えて、それが吸収される様子を追いかけたもの。

硝酸よりもグルタミンやアルギニンの方、吸収がよい。また寒くても、吸収がよいこともわかった。このことは農家さんの方がより実感していることかもしれない。フィッシュソリブルでホウレン草をを育てると、冬でもぐんぐん伸びる。

人間は硝酸をアミノ酸に同化することはできないが、植物は硝酸を原料にアミノ酸に同化できる。上の図は、硝酸を亜硝酸に、亜硝酸をアンモニアに同化する行程。硝酸は、細胞質にあるモリブデンを含む酵素によって亜硝酸に還元される。亜硝酸は葉緑体の中にある鉄と硫黄を含んだ酵素によってアンモニアに還元される。

アンモニアはミトコンドリアの中にあるマグネシウムかマンガンを含んだグルタミン合成酵素によってグルタミンになり、グルタミン酸合成酵素によってグルタミン酸になる。その後は各種アミノ基移転酵素によって他の各種のアミノ酸に合成されていく。


硝酸をアミノ酸にするために、植物は光合成によって生産したブドウ糖を多く消費しなければならない。
硝酸を亜硝酸にする行程でも、亜硝酸をアンモニアにする行程でも、アンモニアをアミノ酸にする行程でも、ブドウ糖を原料にしたエネルギーを消費する。アミノ酸態で作物を育てると、硝酸→亜硝酸→アンモニア→アミノ酸という行程を省略できる。よって、この行程で消費されるブドウ糖がまるまる余ることになる。

①余ったブドウ糖はセンイでできている外壁の強化に使われ病害虫に強くなる。②余ったブドウ糖で根酸が増えミネラルの吸収がよくなる。③余ったブドウ糖で糖度が上がる。④余ったブドウ糖を原料にビタミンなどの栄養成分が増える。⑤余ったブドウ糖で貯蔵デンプン量が増えて重量が増す。

また、硝酸、亜硝酸、アンモニアの場合は、根から吸収した後、葉へ一度上げて、葉の中でアミノ酸にした後、根を伸ばすためには、葉から根の生長点へ戻すということをしなくてはならないが、アミノ酸の場合は葉へ上げる必要がないため、根の細胞を増加させるスピードが速くなり、根量の多くなる。


炭水化物つきの窒素であるアミノ酸で、作物に窒素を供給することは、上の図のように、発酵菌の働きによってバイパス(近道)をつけたようなものである。

地球の生命の生きるためのエネルギーであるブドウ糖と、生きものの体を構成する細胞の原料であるタンパク質のもととなるアミノ酸も、植物がつくる。つまり光合成によって、水と炭酸ガスと太陽エネルギーからブドウ糖を生産し、土壌の無機の窒素、つまり硝酸やアンモニアを吸収して、光合成によって生産されたブドウ糖と合成してアミノ酸をつくる。

動物は植物を食べる従属栄養生物である。植物も動物も、死ぬと分解者によって、無機物に分解されていく。この自然の循環の中で、アミノ酸肥料は、動植物の死骸のタンパク質を発酵菌によってアミノ酸に分解して供給するもので、無機物にすることなく、半分解で、炭水化物とカロリーを保持したアミノ酸で植物に供給することで、植物はアミノ酸を合成するためのエネルギーを節約できるので、生育が加速し、あまったブドウ糖のために品質が向上する。


アミノ酸肥料の弱点。つまり有機栽培の弱点は、アミノ酸や有機酸が土壌中で分解されるときに炭酸ガスが発生し、土壌が団粒化し、根の張りがよくなり、根の量が増える。さらに、アミノ酸や有機酸は酸なので、ミネラルをよく溶かす。このため作物はミネラルの供給がよくなり、光合成能力も向上し、ミネラルを溶かすために根から放出している根酸が増えて、さらにミネラルの供給がよくなる。これは弱点でないように思うかもしれないが、土壌から作物へ供給されるミネラルは無限ではないので、枯渇し、作物は欠乏症から病気になったり、健康状態がわるくなり、害虫害に会い易くなる。

これを防止するには、土壌分析を行い、土壌の栄養ミネラルの減少をモニタリングして、必要なミネラルを肥料として施肥する必要がある。

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